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監修:紀平 正幸 (きひら まさゆき)東京FPコンサルティング株式会社代表取締役。ライフカウンセラー。個人のファイナンシャルプランニングをはじめ、テレビのコメンテーター、講演、執筆活動など幅広く活躍中。

【マネープランコラム】40~50代から考える、老後への備え 老後のために、現役時代の“働き方”を考える。

国も企業も、「共働き」をバックアップ。

配偶者控除の見直しなど、ニュースでも夫婦の働き方に関係するトピックスを目にする機会が増えています。これは、国が少子高齢化社会の流れに歯止めをかけるために「一億総活躍社会」を目標に掲げ、その一環として共働きを推進していることが大きな理由です。そもそも配偶者控除というのは、配偶者である妻(夫)が無収入あるいは103万円以下の年収である場合に、税負担を軽くする仕組みのこと。しかしこの仕組みがあることが、主婦(夫)層の“働き控え”につながっているとの見方から、この仕組みを廃止することが検討されています。パートなどで働く主婦(夫)層の労働時間を拡大し、国を活性化させようという狙いがあるのです。

現行の配偶者控除の仕組み

現行の配偶者控除の仕組みの表

さらに、共働きを後押しするため、2016年10月から厚生年金・健康保険の加入対象者の枠が広がりました。従来は国民年金にしか加入できなかった配偶者控除の対象となる妻(夫)も、一定の条件を満たすことで厚生年金に加入できるようになったのです。(下記「厚生年金保険・健康保険の加入対象者表」参照)。

これにより、配偶者の給与収入が年間103万円以下であれば、配偶者控除を受けながら年金受給額を増やせるようになりました。また国だけでなく企業も共働きを支援する流れになりつつあります。例えば、専業主婦(主夫)を対象とした家族手当が廃止されて代わりに子供を対象とした手当を給付したり、育児休業からの復帰支援給付金制度を設けたり、事業所内に保育所を設けたりといった、様々な制度が導入され始めています。

厚生年金保険・健康保険の加入対象者
  • ・ 週に20時間以上働いていること
  • ・ 勤務先が従業員501人以上の企業であること
  • ・ 一ヶ月あたりの決まった賃金が88,000円以上であること(賞与、残業代、通勤手当は含まない)
  • ・ 75歳未満であること
  • ・ 1年以上働くことが見込まれること

今後の動きとしては、2018年から配偶者控除の対象となる配偶者の年収上限を現行の103万円から150万円に引き上げる一方、対象世帯の拡大による税収減を防ぐため、控除を受けられる主な稼ぎ手(主に夫)の年収を1120万円以下に制限することを、政府・与党は打ち出す方針です。ただし、年収が1120万円の限度を超えた途端に配隅者控除がなくなると負担感が強くなるため、年収が1120万円を超えても税負担が急増しない仕組みを導入する予定。具体的には、1120万円を超えると38万円の控除額が徐々に減少し、1220万円でゼロとなるような仕組みとなるでしょう。

「損をしない働き方」で現役世代の収入を増やす。

共働き世帯にうれしい税制改正が進みつつあるものの、現時点ではまだ検討段階。そうなると気になるのは、今、共働きを始めると社会保険料などの負担が増え、かえって収入が減ってしまわないか、ということでしょう。そこでもっとも「損をしない」働き方についてご説明しましょう。

「損をしない」働き方シミュレーション
妻の年収 妻の手取り 夫の手取り 世帯の手取り 増加寄与率
0万円 0円 377万円 377万円 -
100万円 100万円 377万円 477万円 100%
◆社会保険料負担の壁
110万円(社会保険料なし) 109万円 377万円 486万円 99%
110万円(大企業:社会保険料あり) 91万円 377万円 486万円 83%
130万円(社会保険料なし) 126万円 377万円 503万円 97%
◆配偶者特別控除の壁
140万円(配偶者控除あり) 111万円 377万円 488万円 79%
160万円(配偶者特別控除あり) 125万円 376万円 501万円 78%
210万円(配偶者特別控除なし) 161万円 371万円 532万円 74%
妻は「年収130万円以下」で社会保険料負担のない「中小企業」で働くのがベター。 ※:増加寄与率=世帯の手取り増加額/妻の年収
注1:夫は年収500万円の会社員
注2:健康保険料は全国健康保険協会40歳未満の例。年齢、都道府県によって異なる。
注3:大企業とは従業員501人以上など
2017年3月 東京FPコンサルティング作成

また、共働きとひと口に言っても、働き方は会社勤めだけではありません。自宅で教室を開いたり、手作り品をネットで販売するなど、これまでの趣味や経験を活かせる働き方もあるでしょう。また初めて共働きを始める方にとっては、戸惑いもあるかもしれません。しかし、夫婦がお互いに自立することで家計の安心感も増しますし、何より新しいコミュニティとのつながりが生まれることは、老後を元気に迎える素敵な活力になるはずです。

自立した働き方で、老後の生活費を増やす。

共働きがもたらすのは、現役時代の世帯収入増だけではありません。130万円以上の年収を得ることで配偶者も加入できるようになる「社会保険」は非常に大きなメリットになります。目先の収入だけを考えると、社会保険への加入によって保険料の負担は重く感じられるかもしれません。しかし社会保険に加入することができれば、これまで国民年金のみの加入だった専業主婦(夫)に厚生年金が上乗せされ、老後の生活費を増やすことができるのです。共働きの期間によって年金受給額は変化するため、できるだけ早い段階からスタートさせることが得策だと言えます。

共働き期間の違いによる年金受給額のシミュレーション
厚生年金加入期間 年金増加分(年間) 年金増加分(トータル)
[65歳~90歳まで]
40歳~60歳 17.5万円 438万円
45歳~60歳 13.1万円 328万円
50歳~60歳 8.8万円 220万円
55歳~60歳 4.4万円 110万円

(*厚生年金加入期間中の年収を150万円と想定)

また雇用保険によって育児休業給付金や失業等給付が受けられたり、ケガや病気で働けない場合に健康保険からの傷病手当金が支給されたりなどのメリットもたくさん。不透明な未来の“安心”を得ることができるのです。

エネルギー価格や食料品の高騰などにより生活費は上がっているのに、少子高齢化によって年金の受給額が目減り傾向にある、日本。老後の安心を支えるはずの社会保障制度は、今や力不足の状態です。もはや国に頼りきりではなく、自助努力が不可欠な時代になりました。そこで教育費や老後への備えが目の前の大きな課題になっている40〜50代が注目すべきなのが“働き方”の見直し―――つまり共働きの検討です。

短期的には、子どもが小さいなどの事情で勤務時間を伸ばすのが難しい世帯もあるでしょう。しかし、夫に病気などの万一のことがあれば世帯の収入が減るリスクもあります。共働きによって収入を2口に分散しておくことはリスク分散の意味からも効果的といえます。また、国立社会保障・人口問題研究所は2050年に女性の約半分は93歳まで生きると試算しています。自分で老後に備えるためにも様々な税の“壁”を超えて働くことは大切です。

今後さらに国と企業が共働きをバックアップするための制度を拡充していくことが見込まれています。共働きによって、今と老後の「安定した収入源」を確保しておくことが、心豊かな暮らしへの一助になるはずです。

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