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住宅購入や子供の教育などにかかる、人生の大きな出費。前回のコラムでもご紹介したように、少子高齢化など社会の変化を背景に、各世代が独立して資金を十分に調達するのは難しい時代になりました。そこで提唱したいのが、安心して心豊かに暮らすための世代間扶助である「代々設計」です。
実は「代々設計」と同じような世代を超えた助け合いは、少し前の日本ではごく自然に行われていました。今から60年前を例に考えてみましょう。昭和30年の男性の平均寿命は63歳(厚生労働省「簡易生命表」による)。その時期は子世代が30代に入った頃で、ちょうど住宅購入や教育のためにまとまった資金が必要となるタイミングでもあったのです。つまり親世代は相続という形で大きな資金援助をし、その資産は子世代・孫世代のために活かされていました。
一方、現代の平均寿命は80代に突入し、相続が発生するのは子世代が50代の頃。そうすると、住宅も購入済み、子供の教育費も捻出済みの状態での相続となり、親世代の資産は“活かされる”機会を失っている状態だと言えるでしょう。また、子世代だけですべての資金を調達しなければならないという事態は、家計を圧迫し、ともすれば子供の教育費にも窮する状態というケースも……。結婚する人口が減少する背景に「経済的に余裕がない」という理由を挙げる人がもっとも多いことを考慮すると、教育資金不足が孫世代の収入減の原因となり、いずれ家系の存続の危機をも招きかねないとも言えるでしょう。
国もこういった事態による将来的な人口減や経済の先細りを憂慮し、親世代の資産を生前贈与などで“活かす”ための支援制度を打ち出しています。つまり、各家庭だけでなく、今後の日本社会の存続・発展のためにも、「代々設計」の考え方は重要性を増しているのです。
では、代々設計を具体的に計画するには、どうすればよいのでしょうか。まずは、各世代の資金計画を把握することから始めましょう。独立した世帯となる20代から平均寿命である80代まで、どのようなタイミングでどのような資金が必要になるかを整理するのです。
各世代の資金計画を整理した後は、親世代・子世代とどう連携すべきかを考えてみましょう。そのためには各世代がどのような悩みを抱え、どのような資産状況になるのかをシミュレーションすることが重要です。データによると、25〜34歳をはじめ、住宅購入や教育の資金が必要となる年代では「生活資金」に関する悩みが多く、貯蓄額も低くなっています。一方で55歳以降になると「健康」「介護」への悩みが増え、貯蓄額は高くなる傾向にあります。
これらのことを考慮すると、経済的な悩みを抱える30・40代の子世代に対して、経済的に余力のある親世代が「資金」の援助を行うことが非常に有効だと言えるでしょう。一方で、健康面での不安を抱える60代以降の親世代に対しては、体力的に余力のある子世代が「暮らしの安心」という支えを提供することが考えられます。世代間で異なる悩みを持つからこそ、互いにカバーし合える−—そういった相互扶助の関係性を築くことが、代々設計の理想的な形なのです。
いつでもどこでも必要な物が簡単に手に入るようになった今、物質的な豊かさを追い求めるアメリカ型社会は終わりを迎えようとしています。これからは、精神的な豊かさを求めるヨーロッパ型社会の時代です。精神的な豊かさとは、“安心して、心豊かに暮らす”ことではじめて叶えられるもの。そのために見直すべきなのが、世代間の助け合いと心のつながりなのです。
「代々設計」は単に経済的・物質的な支援を提供し合うものではありません。「代々設計」を通じて世代間の対話と交流を大切にし、互いの未来に安心を与え合おうとする気持ちを持つことが、代々設計を成功させる重要なポイントだと言えるでしょう。
———では実際に、親世代がどのように資金援助を行い、子世代が暮らしの安心を支えていくべきなのでしょうか?次回は具体的な相互扶助の方法について、「資金&近居」をキーワードに考えていきます。