企業・法人の賃貸運用

企業にとって不動産とは何か?4つの側面から考察

企業にとって不動産とは何か?4つの側面から考察

企業にとっての不動産とは何か

 企業にとって不動産とは何でしょうか? 今回は、この問いからスタートしましょう。

 企業にとっての不動産とは、端的に言えば企業が「財やサービスを生産するためのベースとなるもの」と言えます。また、これを経済学的には、「生産資源=生産を実行するために必要なモノ」の1つ、とも言えます。

企業が利用するための不動産

このような観点から、不動産を具体的に見れば、以下の2つに分類できます。

1)オフィス、工場、倉庫、店舗等々。これはまさしく、「生産資源」と言えます。

2)福利厚生としての不動産
この例としては、例えば寮・社宅、グランド、その他、福利厚生施設(宿泊施設等)です。

これらは直接的生産に関わらないので「準生産資源」と言えるものです。

 1)2)ともに、これらは、「利用するための不動産」ということになります。

資産としての不動産

 企業が所有する不動産には別の側面もあります。それは、投資財、資産としての不動産です。

3)投資対象としての不動産資産
後述するように、不動産から収益を上げ、企業利益の最大化を図ります。

4)担保資産としての不動産
金融機関とのお付き合いの観点では、不動産は担保資産ということができます。また、担保資産は、「信用資産」とも言えます。

1)2)は不動産と「利用」という形で関わり、
3)4)は投資財・資産としての関わりです。

以下、3)の側面について深堀します。

持たざる経営から持つ経営への再びの変化

 法人(企業)による不動産(土地や建物)の所有状況や不動産の活用状況は、時流により変化しています。2000年代前半は、「持たざる経営」つまり「バランスシートを軽くした経営」がもてはやされ、多くの企業が一部の活用されていない不動産(例えば、社宅など。後述します)を手放しました。首都圏など大都市では、こうした時流によりある程度の広い土地が流通されることになり、この時期に多くのマンションが分譲されました。しかし、近年は、再び企業による不動産所有&活用が活発になっています。ここからは、こうした状況を「法人土地基本調査」をもとに分析してみます。

法人土地基本調査とは

 「法人土地基本調査」は、5年に1度行われる国の基幹統計(=総務省が指定する、行政機関が行う特に重要統計もこと。これ以外は、一般統計と呼ばれます。)の1つで、法人(企業)による不動産(土地や建物)の所有状況や不動産の活用実態を掴むことができます。この調査は、対象は全国の約49万の法人(母集団は約200万法人ですから、概ね1/4の企業への調査)で、全国・地域別での調査結果がでます。
 最新の調査は2018年の調査で、次回の調査は2023年(令和5年)に行われ、翌2024年9月に速報結果(確報は2025年10月の予定)がでます。次回に向けて、2021年秋~22年春に予備調査(試行調査)が行われ、準備が進められています(執筆時点:2022年5月末)。結果が出れば、本サイトでもお伝えしたいと思います。
 そのため、ここからは2018年までの調査結果をもとに分析を進めていくことにします。

意外に多い、低・未利用地

 低・未利用地とは、法人が所有している「宅地など」の土地の利用現況のうち、「駐車場」「資材置場」「利用できない建物(廃屋等)」「空き地」の合計のことを、本調査では言います。
 2018年度調査を見ると、全国の法人が所有している土地総面積のうち12.6%が低・未利用地となっています。この数字を聞くと、「こうした土地は地方圏に多いのか」と考えてしまうかもしれませんが、確かに地方圏は全国平均より多く14.1%となっていますが、意外に東京圏でも8.1%、名古屋圏が8.2%、大阪圏8.2%もあります。
 また、法人が所有している低・未利用地の約8割は、5年前から低・未利用の状態で、今後も「転換の予定はない」との回答が約6割となっています。
 こうした土地を所有している企業は、企業所有資産の最適化を検討すべきであり、具体的には使わないのであれば、①本業以外の有効活用を検討するか、②手放すか、等を検討すべきでしょう。

増える企業の賃貸用住宅保有数

 2018年の調査では、法人が所有する「社宅・従業員宿舎以外の住宅」の件数が大きく伸び、1993年(平成5年)以降過去6回の調査で最高の値となりました。逆に、社宅・従業員宿舎は平成5年・10年・15年・20年(2008年)にかけて、減少しています。

 一方、社宅・従業員宿舎以外の住宅、これは主に企業が所有する賃貸用住宅のようなイメージですが、こちらは平成20年(2008年)を境に増加傾向にあります。そして、平成30年(2018年)には、平成15年(2003年)の倍近くになっています。
企業が所有する遊休地(=低利用地・未利用地)に賃貸用住宅を建てた事例も多く、また縮小した工場の跡地に建てた事例、社宅をやめてそこに賃貸用住宅を建てた事例も多いようです。加えて、2013年以降金融緩和政策により低金利時代になると、企業が新たに土地を取得してそこに賃貸用住宅を建てる事例も増えました。こうしたことが、背景にあると考えられます。

 持たざる経営から、持つ経営へ再び変化している状況がこの調査からわかります。

 冒頭の「企業にとっての不動産の4つの側面」のうち、投資財、資産としての不動産の側面がより強くなっていると言えそうです。投資対象としての不動産資産を持つ企業が増え、その不動産から収益(賃料)が入り、企業利益の最大化を図っていると言うことになります。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

関連記事