不動産市況
2020年の不動産市況、オリンピック後はどうなる?
不動産市況コラムでは、賃貸住宅経営に関する内容で、注目度の高い最新の不動産市況データ、金融経済データ、法律改正、税制度改正などを取り上げて、月に1本ペースで解説してまいります。
第1回目ということで、近年の不動産市況を振り返り、2020年の不動産市況を予想してみましょう。
大都市部で2012年の秋口あたりから始まった不動産サイクルに乗じた価格上昇基調は、2015年半ば過ぎにいったん踊り場に差しかかりました。それまで見られた下降~上昇のピークの期間7年のサイクル通りの様相でした。
2008年のリーマンショックでピークから大底に向かい、そこから7年目の2015年は大きな節目になるはずでした。つまり、2015年にいったん不動産市況が踊り場に差しかかったというのは、自然な流れといえました。しかし、上昇が止まりかけたものの、2016年1月に日銀がマイナス金利政策の採用を発表したこと、日銀が大量に国債を購入することでの金利下落圧力をかけたこと等により、再び上昇機運に乗りました。
ただ、そこで好況が止まらなかったとはいえ、先回の不動産市況の盛り上がりのピーク(2008年頃)から見れば、その間に不動産市況上昇に転じてかれこれ10年近くが経過した2018年、2019年になると、「もう、いくら何でも」という雰囲気が強まってきたのは事実です。たしかに、相場という側面からみると、10年も上昇が続けば天井をつけてもおかしくありません。不動産ビジネスに関わっている人の中には、2019年をピークにして、下落に転じるだろうとみている方も多かったようです。
しかし、都市部において上昇基調は落ち着いてきているものの、好調な波は地方都市や地方観光地へと波及しています。そのため、毎年3月20日ごろに発表される地価公示では、今年(2020年)も、住宅地・商業地ともプラスとなりそうです。
金融緩和が進んだ2013年から2015年にかけてのような勢いの強い上昇トレンドは期待しにくいものの、市況自体は崩れず、投資環境は決して悪くないという状態が2020年も続くでしょう。
不動産市況が崩れにくい要因は、やはり金利がかなり低い水準を維持し続けていることが最大の要因だと思います。
利回りベースで投資の収益性を比較すると、国債など円建て債券はゼロ金利前後、株式の配当利回りはプラスですが、それほど2~3%程度で高くはありません。したがって、利回りベースで不動産に投資していたほうが良いのではないかという、消去法的な判断が働いているようです。
東京や大阪といった大都市圏への投資意欲は収まりつつあり、地価上昇の勢いがだいぶ削がれてきた感はありますが、札幌・福岡・仙台・広島と地方中核都市から石川・熊本といった、それに準ずる地方都市、そして北海道のニセコ、沖縄など地方観光都市にはまだまだ資金が流れ込んでいます。これは実際に路線価などで地方の地価を見ると明らかで、47都道府県のうち23都道府県で商業地地価が上昇しています。
(図1)
2020年、オリンピック後はどうなる?
2020年は、56年ぶりに東京オリンピックが開催されます。東京やその周辺都市でのオリンピック関連施設の建設には概ね完成しており、東京のインフラ整備はいっそう進化しました。
東京オリンピックは7月24日~8月9日、パラリンピックは8月25日から9月6日までの開催予定です。週刊誌などでは、「東京オリンピック後は不動産価格が暴落する」などの記事もあるようですが、1)現在の日本の経済状況 2)過去のオリンピック開催地での実例 の2つから検討しても、「暴落する」ということは、まずないと思います。
ロンドンではオリンピック開催が決まったのちにじわじわと住宅価格は上昇、そして五輪後(2012年)も4年程度、価格上昇を続けました。開催決定時からオリンピック後4年で2倍くらいになったと言われています。シドニー(2002年)や北京(2008年)でも同様です。
では、東京、日本は?はどうなるでしょう。五輪開催決定(2013年)からの6年で東京の住宅価格は約1.3倍になりました。オリンピック後は、「ロンドンのように勢いが止まらず上昇を続ける」、ということはなさそうですが、現在の経済状況や住宅需要を鑑みれば、オリンピック後の東京の住宅価格は、しばらくは横ばいの様相だと思います。そして、日本全体でみても、価格調整程度の下落はあるかもしれませんが、少なくとも「暴落する」兆候は見えていません。
執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所