不動産市況

2022年年間の新築住宅着工戸数と23年の展望

2022年年間の新築住宅着工戸数と23年の展望

2022年の新設住宅着工戸数の俯瞰

 1月31日、国土交通省から2022年12月の「新設住宅着工戸数」が発表されました。これにより、2022年12カ月分の新設住宅着工戸数が出そろったことになります。
 22年の1年を振り返れば、ざっくりとした傾向では、「絶好調な賃貸住宅」と「不振の持ち家」と、明暗が分かれたという1年だったといえるでしょう。
 カテゴリ―別に新設住宅着工戸数の前年同月比を見ると、持ち家は2021年12月から2022年12月まで、すべてマイナスでした。とくに2022年6月以降は不振で、前年同月比で2ケタのマイナスを続けています。これに対して貸家は、2021年3月から2022年12月まで、22カ月連続で前年同月比がプラスとなりました。2022年の1年間の前年比を見ると、持ち家は25万3,287戸でマイナス11.3%、貸家は34万5,080戸でプラス7.4%となりました。

2018年からの推移

 次に2018年からの5年間の推移を見てみましょう。

賃料と物価指数の変動率の推移

 図1は、2018年から2022年までの5年間の新設住宅着工戸数の推移を示しています。
 「貸家」の新設住宅着工戸数は、2013年頃から2017年にかけて大きく伸ばしていましたが、2018年以降は前年比マイナスが続きました。2017年は年間に42万戸を超える新築着工戸数でしたが、2020年には、その7割にまで落ち込みました。しかし、21年からは再び増え始めています。その理由については、後段で解説しています。

 一方、「持ち家」の着工件数には大きなブレが見られます。図1の前年比をみれば、マイナスとプラスが交互になっており、上がったら下がり、下がると上がる、という傾向が続いています。景気や社会情勢に敏感に反応し、反動減、反動増が繰り返されています。

好調が続く貸家着工戸数

 賃貸用住宅が主な「貸家」の着工戸数は、22カ月連続で前年同月比プラスとなりました。
 近年の好調の背景には、①金融緩和が続き史上最低水準の貸出金利が続いていること ②不動産投資の中でも賃貸住宅投資の安定性が目立っていること ③株式などの金融資産からの資産移転が進んでいること などが考えられます。
 1つ目の金利については、国債金利は上昇傾向にありそれに伴い固定金利は上昇していますが、多くの方が賃貸住宅購入(建築)のために利用するローンは変動金利であり、変動金利は上昇していないことが要因です。
 2つ目の賃貸住宅の安定性については、コロナ禍でも需要は安定し、在宅勤務が定着しこれからも安定感がありそうなこと、また都市部を中心に家賃上昇がみられ始めていることなどが要因です。
 3つ目の資産移転については、このところの日経平均は27000円台で安定していますが、アメリカ経済・アメリカの政策金利の動向次第では、大きな動きが予想され、不安定さが増してきています。
 このような背景から、土地活用としての賃貸住宅経営だけでなく、新築された賃貸住宅(分譲型賃貸住宅)の需要が高まっています。賃貸住宅新築物件のキャップレートは大都市部では3%台後半から4%台前半で推移しています。

建築工事費上昇の影響が持ち家の需要を低迷させている?

 一方、不調が続いているのは「持ち家」の新築建築数です。
 持ち家着工戸数の前年比を過去にさかのぼってみると、2021年はプラス9.4%で、2021年の着工戸数は28万5,000戸を超えていました。さらにその1年前、つまり2020年の前年比は9.6%のマイナスで、着工戸数は26万1088戸でした。この時期は、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況であり、前年比で9.6%のマイナスは当然とも言えます。しかし、注目は2022年の着工戸数が、コロナ明けで経済活動が活発化してきたにもかかわらず、2020年を下回っている点にあります。たしかに、2021年の着工戸数がプラス9.4%の伸びでしたので、2022年のマイナス11.3%は反動減だったようにも見えますが、着工戸数が2020年よりも少ないことを考えると、これは反動減だけでは説明できないほど落ち込んでいると考えられます。この要因は、物価上昇の影響だったと思われます。

 建設工事費の動向を示す建設工事デフレーター(住宅総合、月次、2015年基準)を見ると、2017年から緩やかながら上昇していたのが、2021年以降急角度で上昇しているのがわかります。

賃料と物価指数の変動率の推移

 その後、工事費デフレーターは、2022年秋口から上昇幅が縮小して、上昇幅は頭打ちになりつつありますが、そこから下がる気配が見られません。いわゆる高止まりの状態にあります。

23年年間の新築住宅着工戸数展望

 2023年の新設住宅着工戸数は、「金利動向次第」、と言えるでしょう。「持ち家」は賃金水準が上昇すれば、22年の不調からは脱出できるでしょう。「貸家」は金利が大きく上昇しなければ、好調が続くものと思われます。
 さて、その金利ですが、「物価上昇は23年半ばから後半には落ち着く」と見込まれていますが、その一方で「金融緩和」出口をどうするかの議論が進み、わずかずつ金利上昇が行われる可能性もあります。しかし、たとえ金利上昇が少し見られても、賃金水準上昇、賃料の上昇が進めば、好循環が生まれます。こうしたポジティブシナリオとなれば、新設住宅着工戸数は増えるでしょう。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

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