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賃貸住宅の退去時における原状回復について

賃貸住宅の退去時における原状回復について

 賃貸借契約は、「貸す側と借りる側の双方の合意」に基づいて行われるものですが、退去時において、「貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのか」についてトラブルが発生することが時々起こっています。
 このような退去時における原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐため、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準としてのガイドラインが、国土交通省から公表されています。このガイドラインは、2008年に初版公表でこれまで数回改訂されており、その最新版が2023年3月に公表されました。これを基に原状回復について考えてみましょう。

原状回復のガイドライン

 賃貸住宅の原状回復におけるトラブルの事例は多いようです。そのため、行政機関がガイドラインを出しています。例えば東京都住宅政策本部が「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を、また国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。これらを示すことで、トラブルを未然に防ぐことを目指しています。
 こうしたガイドラインは、国土交通省作成のガイドラインによれば、「トラブルの時の基準と考えるのではなく、入居時に結ぶ賃貸借契約において参考にしていただくものです」とされています。また、同ガイドラインには「現在、既に賃貸借契約を締結されている方は、一応、現在の契約書が有効なものと考えられますので、契約内容に沿った取扱いが原則ですが、契約書の条文があいまいな場合や、契約締結時に何らかの問題があるような場合は、このガイドラインを参考にしながら話し合いをして下さい」とありますので、既存契約が有効となります。

原状回復の原則

 まず、原状回復とはどのようなことを指すのでしょうか。
原状回復とは、国土交通省のガイドラインによれば、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。そして、この復旧する(=原状回復する)費用は、「賃借人」(=入居者)の負担となります。
 その一方で、経年劣化(=経年変化)や、通常の使用による損耗・劣化によるものの修繕費用は、賃料に含まれるものであり、これを入居者は負担しなくてよいものと規定されています。
 つまり、原状回復とは、「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ということが明確に規定されています。通常の使用による劣化は関係ないということです。

 先に述べた東京都作成のガイドラインによれば、こんな例があります。
「例えば、レンタカーを数か月間借りたとします。数か月も乗っていれば、タイヤもすり減ったりするでしょう。だからといって、車を返す時にレンタカー料金以外にその復旧費用を別途請求されることはありません。一方、不注意で車をぶつけてしまった場合などは、レンタカー料金以外に復旧費用を請求されることになります。」

 以上が原則となりますが、ここでトラブルが起こるのは、「この消耗・劣化は通常の使用によるものかどうか」ということです。

通常の使用とはどんな状況か

 そこで、「通常の使用」については、その定義を定めることが難しいため、例をあげてガイドラインに盛り込まれています。

① 「入居者が通常の住まい方・使い方をしていても、発生すると考えられる劣化・消耗」これがベースです。

② ①より、消耗・劣化が激しい状況。入居者の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの。
つまり、明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの。

③ 概ね①の状況だが、その後の入居者の維持管理が悪く、損耗や劣化等が発生または拡大したと考えられるもの。

 ここで、
①の状況では、入居者による原状回復の義務はありません。
②の状況は、明らかに入居者による原状回復義務があります。
③の状況においても、その部分においては入居者による原状回復義務が発生します。

 このうち、②や③の状況であっても、その中には経年変化や通常損耗が含まれていると考えられます。
 入居者はその分を賃料として支払っていますので(上記の原状回復の原則を参照)、入居者が原状回復のための修繕費用の全てを負担することになれば、貸主借主間の費用分担においての借主が不利になることも考えられます。そのため、入居者の負担分について、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させる考え方となっています。
 つまり、例えば、入居年数4年と6年では、後者の方が経年劣化・経年変化とみなす割合を多くし、入居者の原状回復のための負担を少なくするようにガイドラインでは制定されています。

トラブルを未然に防ぐために

 原状回復におけるトラブルは、賃貸借契約における「退去時」のやりとりにより発生するものと思われがちですが、トラブル回避のためには「入居時」のやりとりを丁寧に行えば防げるものと考えられています。具体的には、「入居時」において、室内外の劣化や消耗の状況をよく確認しておき、退去時にはそれが「入居期間に発生したものかどうか」を明確にしておくことなど、入居時に物件の状況を貸主(あるいは代行業者)と借主がよく確認しておくことが、まず基本となります。
 そして、賃貸借契約を締結する時には、ガイドラインなどを基に原状回復などの契約条件を当事者双方がよく確認し、納得したうえで契約を締結することが求められます。また、仲介業者の方も、適切に説明して、双方の合意を取る事が求められます。このような対応が、トラブルを未然に防止するためには有効であると思います。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

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