不動産市況
最新の人口移動の状況分析① 首都圏とその周辺県の状況
人の移動は、住まいの移動が必ず伴います。そのため、人の移動(人口移動)の状況を見れ、住む場所の変化の状況が分かります。先ごろ、総務省統計局から21年12月の「人口移動報告」が公表されました。これにより、21年1年間の人口移動の実態が見えて、住む場所の変化もわかります。
人口移動の概要
2021年の都道府県を跨いで移動した方(住所を移した方)は、日本人+外国人合わせて247万6640人で、20年分からプラス12,648人(+0.5%)となりました。2020年は前年に比べてマイナス104,094人と大きく減少しましたが、移動数はそこから大きく戻らなかったという結果となりました。ちなみに、日本人だけ見れば、224万2845人で4,647人(-0.2%)の減少となりました。人口移動に関しては、未だ新型コロナウイルスの影響が大きいものと思われます。
また、20年は東京都を除く46道府県で転出数が減りましたが、21年はその反動なのか24都道府県で増加となりました。3大都市全体では65,873人の転入超過となり、これは前年比でマイナス15,865人、2年連続の縮小となりました。
都道府県を跨いだ方を年齢別に見れば、例年通り22歳が最も多くなっています。就職を機に移動する方が多いものと思われます。10代後半~20代後半での移動が全体の多数を占めている傾向は変わりません。
また、18歳の移動は2020年に比べて約5000人増えました。大学などへの進学を機に移動するものと思われますが、大学などの授業が徐々に再開されたからなのでしょう。また20代合計でも、2020年に比べて都道府県を跨いだ移動が大きく増えました。
進学、就職を機に移動する方の大半は、新しい地での住居は賃貸住宅です。2020年は大学近隣の賃貸住宅に空室が目立ちましたが、幾分回復の兆しが見えてきたようです。
転入者が増加している首都圏と周辺の県
21年の「人口移動報告」において特徴的だったことがいくつかありますが、その1つは、東京以外の首都圏とその周辺の県で、人口流入が増えていることでした。
20年に比べて転入者数が最も増えたのは茨城県3,501人(+6.6%)でした。実数で見れば、首都圏や周辺の県では埼玉県(+3,394人)、神奈川県(+3,385人)、群馬県(+1,074人)、山梨県(1,858人)となっています。
このうち、茨城県・群馬県・山梨県は昨年までの転出超過から一転転入超過となりました。転出超過から転入超過となったのは、全国でこの3県だけです。
茨城県は19年、20年は前年比でプラス300人前後(しかし、転出超過でした)でしたが、21年は前年比プラス3,501人と大きく増えました。
同様に、群馬県では19年・20年は転入者の前年比はマイナスでしたが、21年は前年比でプラス1074人、山梨県でも同様の現象が起こっています。茨城県、山梨県への東京圏(1都3県)からの転出超過数は集計を開始した2014年以降初めてとなりました。新型コロナウイルスの影響の広がりから2年で、都市部の周辺地域の住環境の良さが見直され、また働き方の変化が進んでいることが要因と思われます。
ちなみに、転入超過数が拡大したのは、埼玉県がトップで、千葉県、神奈川県、滋賀県の4県のみとなりました。
特徴的だった2021年東京都の状況
メディアでも大きく報道されていましたが、東京都の転入超過数は10,815人(日本人のみの集計)で、2019年の86,575人から、87%もの大幅なマイナスとなりました。しかし、転入がプラスであることには変わりありません。
新型コロナウイルスの影響が色濃く出た2020年の数字では、転入超過数が3万8,374人でしたので、影響2年目と言える2021年では大きく状況が変化しているようです。
また、東京23区においては、年間の転出者が転入者を上回る転出超過となりました。東京23区が転出超過となったのは、外国人を含めた集計を開始した2014年以来初めてで、日本人のみの統計で遡っても1996年以来、25年振りのことです。
コロナ禍前の2019年まで5万~7万人程度の転入超過で推移してきました。今回の転出超過が続くのか一時的なものかはわかりませんが、少なくとも21年に限っては大きな変化となりました。
東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)で見れば、81,699人の転入超過となり、前年比でマイナス17,544人、これは2年連続のマイナスです。都県別にみると、全ての都県で転入超過であり、東京都は5,433人(外国人も含めた集計)、神奈川県は31,844人(外国人を含めた集計)、埼玉県は27,807人(外国人を含めた集計)、千葉県は16,615人(外国人を含めた集計)でした。神奈川・埼玉・千葉県では、転入超過数が増加したのに対して、東京都では転入超過数が2年連続の減少となりました。前年の転入超過数は31,125人(外国人を含めた集計)でしたので大きく減少したことになります。
変化が起こっているのはファミリー層
この人口移動報告は、5年刻みでの集計もあります。これを見れば、年代ごとの傾向が分かります。
下記グラフはコロナ禍前の2019年と2021年の転入超過数の年代ごとの比較をしたものです。
19年と21年で大きく変化しているのは、子育て世代と言われる30~40代前半における転出が大幅に増えている事、そして子ども世代、特に9歳以下の世代の転出が増えていることです。
また、15~19歳、概ね進学での転入と思われますが、この世代の転入数はほぼ横ばい、20代、概ね就職での転入と思われますが、この世代では大幅な転入超過には変わりはありませんが、その数字が少し減少しています。
こうした傾向は、東京圏の数字(合計数字)で見ても共通する特徴です。
つまり、「リモートワークの浸透で郊外に転居しているのは、概ねファミリー層であり、若年層は、こうした傾向はあまり顕著ではない」ということが数字の上からは推測されます。
進学、就職での転入者の大半が、少なくとも結婚して子供を持つまでは賃貸住宅に住むことが多いことから考えると、首都圏における賃貸住宅需要は、大きな落ち込みはないものと思われます。
執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所