不動産市況

これから賃貸経営を始めても大丈夫か?賃貸住宅需要のこれから

これから賃貸経営を始めても大丈夫か?賃貸住宅需要のこれから

 土地活用として賃貸住宅(アパート)建築を行う方は、1980年代から2000年代前半は、多く見られました。そしてリーマンショックから2012年頃には一時減りますが、その後2015年の相続税の改正が行われ、また大きく増えました。この間、我が国の人口は減少しはじめ、地方での過疎化が進み、空き家が増えているという問題がクローバーアップされています。低金利が続いていますが、「これから賃貸住宅建築をして大丈夫か」と需要を心配するような状況にも思えます。
 ここでは、人口動態と賃貸住宅需要の関係について考えます。

住宅需要を決めるのは世帯数の動向

 最初に、お伝えしておきたい事は、住宅需要を読み解くには、「人口よりも世帯数の動向の方が大きな影響を与える」ということです。
 確かに、2010年ごろから、日本はわずかずつですが人口減少が進んでいます。近年は(コロナ禍の時を除いて)外国人移住者が増えており、その分で人口減少のスピードは緩やかになっていますが、それでも2040年には現在から約1000万人程度の減少が見込まれています。
 しかし一方で、世帯数は国が調査(国勢調査)を開始して以来増加を続けており、今後もまだしばらく増加の見通しです。とくに単独世帯(一人暮らし)は、増加の一途で2040年には全世帯の4割が単独世帯になると予測されています。そして知っておきたい事は、都市部においては、このように増え続けている単独世帯の約7割が賃貸住宅に暮らしているという事実です。

単独世帯向けの間取りの需要が高まる

 最新人口移動状況(総務省:2022年の年間分)をみれば、新型コロナウイルスの影響で一時停滞した都市部への人口集中は再び加速し始めました。特に多くが、賃貸住宅に住む20・30歳代の移動数が回復しています。
 こうしたことからも都市部や地方都市の市街地では、これからも賃貸住宅需要は安定しており、賃貸住宅需要が増加する可能性が見込まれます。
 単身世帯が増えることで、これらの方が多く住む1R、1LDK、2LDK等の間取りの賃貸住宅需要は高水準を維持することでしょう。
 また、このような単身向けコンパクトタイプの部屋の賃料は、ブレ幅が小さく、また安定しています。仮に景気が悪化し、賃料が下落基調になったとしても、これまでの例では大きく賃料が下がることはないと思われます。

持ち家志向が少なくなっている

 持ち家比率は徐々に低くなっています。2018年(総務省:住宅・土地統計調査の最新データ)の全国の持ち家比率は61.2%で、都市部はもちろん、地方都市においても持ち家比率は少しずつ下がっています。持ち家比率の低下は、つまり「賃貸住宅に住む方の増加」ということになります。

世代別30年間の持ち家比率の変化

 この30年間で各年代の持ち家比率がどれくらい下がったのか、「昭和63年=1988年、住宅統計調査」と「平成30年=2018年、住宅・土地統計調査」を比較してみます。
(注:持ち家比率は総務省から5年ごとに発表され、直近では2018年調査(2019年公表)データが最新となります)

若年世代で持ち家比率が減少傾向

 図をみれば明らかなように、この30年間で各年代の持ち家比率は低下しています。とくに、30代と40代では10ポイント以上も低下しています。

持ち家比率低下の3つの理由

 30年間に大きく持ち家比率が下がった背景を説明すると、3つの大きな理由あると考えられます。
 1つ目は、雇用形態・給与形態の変化です。
 年功序列・終身雇用のスタイルが崩れ、給与体系が変わり、右肩上がりに年収が増えることは、「確実にそうなる」と安心できなくなりました。また、非正規雇用の方が大幅に増え、安定収入が実現できないことが多く、安心しての借入が難しいと思う方が増えました。「大きな額の住宅ローンは難しい、リスクが高い」と考える方が増えたわけです。

 2つ目は、家族・世帯のあり方が変化しました。
 晩婚化が進み、初婚年齢は30代前半になってきました。結婚して、子どもが生まれた頃に自宅購入を考える方が多いため、晩婚化が進むと30代や40代前半の持ち家比率は下がります。また、未婚化も進んでいます。生涯未婚率(近年厚生労働省は50歳時点での未婚率と表現を替えました)は、2020年のデータでは男性は28.3%で、3~4人に1人は50歳を超えて一度も結婚せず、女性は17.8%で5~6人に1人は生涯未婚です。未婚の方の持ち家志向は低い傾向にあり、これも持ち家比率を下げる要因となっています。

 3つ目は、持ち家志向の変化です。
 かつては、結婚して子供が生まれるころにはマイホームを持つ、というのが一般的でした。しかし、最近では「積極的賃貸派」と呼ばれる方が増えており、収入・資産(貯金等)はあるけれど、自宅購入せず賃貸に暮らす方が増えてきました。

賃貸志向が進み、賃貸住宅需要は安定する

 持ち家に住む方が増えないのは、メディアや政策論争等では、「収入が大きな影響を与えている」という論調が多いですが、それだけでなく「持ち家志向が減っている」ことも大きな要因でしょう。こうしたことから、仮に人口が大幅に減り、戸建やマンションなどの住宅価格が大きく下がったとしても、持ち家比率が大幅に上がる可能性は少ないと考えられます。

まとめると、

1)賃貸住宅に住む方が多い単身世帯が増えている(約4割)

2)賃貸住宅志向の世帯が増えている(未婚化・晩婚化)

3)賃貸住宅に住む方が多い若年層の、都市部あるいは地方市街地への人口流入は増えている

以上のような事から考えると、たとえこの先人口減少が進んでも、

① 都市部や地方市街地での

② 単身向けの賃貸住宅(ワンルーム・1LDKなど)は、

かなり人口が大幅に減少しない限り、長期的に安定しているものと思われます。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

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