不動産市況

「次は賃貸がいい」持ち家志向が減り続ける理由

「次は賃貸がいい」持ち家志向が減り続ける理由

 本連載でも何度か述べましたが、ここ数十年持ち家志向が減り続けています。
そもそも「持ち家志向」は昔からあったのでしょうか? 今回は、日本における住まいのあり方から、今後の賃貸住宅需要を考えてみます。

持ち家信仰が高まった背景

 振り返ってみると、戦前から1950年代くらいまで、都市部では昔からの地主など一部のお金持ち以外は借家(賃貸住宅)に住むのが一般的でした。東京都区部、大阪市内、名古屋市内、神戸・京都・福岡といった都市では、文化住宅(アパート)、長屋、間借り、といった形態に違いはあれども、普通の暮らしをする多くの方々(=いわゆる庶民)は借家に住んでいました。
 一方、同じころ、地方都市では、持ち家に大世帯で住むことが通常でした。農業・漁業・家内制手工業などが主たる産業だったから、持ち家(=自宅)で商売を行う、自宅に隣する農地を耕作する等、職住接近の暮らしでした。
 しかし、60年代70年代の高度経済成長期に大きく変化します。都市部で工業・商業が急拡大し、その担い手(労働者)として、地方都市からの多くの方々が都市部に移動します。おもに、農業・漁業・林業といった一次産業を営む家の後継ぎでない男性(次男・三男・・)の方々です。中学、あるいは高校を卒業して、大都市にやってきた方々が、10年くらい経つと家庭を持ちます。彼らの多くは、もともと「持ち家」で育っていますから、「いまは給与が少ないから借家だけど、いつかは自分の家を持ちたい」という「持ち家志向」なわけです。
 こうした方々が所帯を持ちます。その住まいとして、60年代後半~70年代にかけて、公的賃貸住宅つまり公団住宅、県営住宅、市営住宅が多く供給されます。「まず賃貸」という状況です。そして、それからしばらくすると、つまり70年代後半から80年にかけて、こうした方々が、「次は持ち家」と考え、都市の郊外において戸建て住宅供給が増えます。こうした流れのピークは、1980年代半ばから後半に起こる不動産バブルの時に起こります。つまりバブル期は、ベビーブーム世代(1947年~52年)が30代半ばから40代前半になる頃に起こったということになります。こうして振り返ると、「持ち家志向」が主流になったのは「地方」からの人口流入が大きな要因だったと言えます。

 しかし、こうした傾向が1990年代後半から変わり始めます。1つの世帯において「賃貸住宅→持ち家」という住まいの変遷が圧倒的多数の志向だったものが、徐々に変わり始めます。

「次は賃貸を」をデータで見る

 国土交通省が主体となり調査される「住生活総合調査」は5年に1度行われます。その最新版(確定版)が8月上旬に公開されました。この調査は、総務省が行う住宅や世帯の実態を把握する住宅・土地統計調査と同じ時に行われ、このたび公表された最新の平成30 年調査(調査時点:平成30年12月1日)は13 回目になります。(注:平成 15 年までは「住宅需要実態調査」として実施。)
 主な調査項目は、「住宅及び居住環境に対する評価」つまり、現在の住環境に関する満足度、そして「今後の住まい方の意向」、「家族構成別に見た、住宅及び居住環境の評価と住み替え・改善意向」などになります。

 この調査を経年で並べてみると、傾向がつかめます。
 下図は、現在の住まい別に、「この後の住み替え希望」ついてのデータです。

現在の所有関係別の住み替え後の居住形態

 現在借家に住んでいる世帯(下4本のグラフ)のうち、「次も借家を希望」という方が毎回増えていることが分かります。そして、今回調査では、初めて現在賃貸に住んでいる方が、「次も賃貸を希望」と答えた方が、「次は持ち家希望」と答えた方を、10ポイント近く差をつけて抜きました。
 「次も賃貸」派が増えている理由としては、「大きなローンをかかえたくない」や「雇用・収入に不安」といった現実的な要因に加えて、本調査の別のアンケート結果で見れますが、「現在の賃貸住宅で十分満足」という声が増えてきていることがあげられると思います。

 逆に、現在「持ち家」の方のうち、「次も持ち家」と考える方は、この15年で20ポイント近く減少しています。ひと昔ならば、「持ち家」から「賃貸住宅」に住み替えるのは、どことなく「格下げ」感があったようですが、現在はそうした感はほとんどありません。

都市部生まれの方が圧倒的に増えている

 いまデータでみたように、持ち家志向の低下には歯止めがかかりそうにありません。「ずっと賃貸住宅」に住むというライフスタイルの傾向は今後も続くものと思われます。

 その背景には、現在の都市部への人口集中があると思われます。
 現在3大都市に住む方は全人口の過半数を超えています。この傾向は2000年代に入って加速しています。つまり、「都市部で生まれ育った」方が圧倒的に多いわけです。そして多くの方が賃貸住宅に暮らしています。冒頭に述べたような、地方都市の持ち家で生まれ育った方は、大きく減少しています。こうした事から考えても、この先も「持ち家志向」は減少すると思われます。

執筆者一般社団法人 住宅・不動産総合研究所

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